「部下に話が通じない。指示に応じてくれない。」↔️「上司・社長に話が通じない。判断・指示してくれない。」

「部下に話が通じない。指示に応じてくれない。」↔️「上司・社長に話が通じない。判断・指示してくれない。」

パワハラ?発達障害?

カウンセリングでは、職場の上司や経営者から、自分がやりたくない仕事を指示されたり、勤務態度を注意されることなど、納得できないことが多くて、「自分だけ他の人と扱いが違う」と葛藤を感じているという内容の相談もあります。

こうした相談内容では、自分がパワハラを受けているかもしれないという思いがあり、実際パワハラなのかどうかを確認したいというニーズがあってカウンセリングを受けに来られる方たちも多いです。

一方、管理職や経営者の立場の方たちからは、部下から一方的な態度や強い態度を取られていて、厳しくしたり強い態度に出るとパワハラになる可能性があり、どう関わったらよいかわからないという相談も多いです。

部下側からの相談でも、上司や経営者側の相談でも、相手のことを「もしかして発達障害なのでは」という話も出てきたりもします。

実際に、客観的状況も含めて詳しく教えてもらうと、「発達障害」の可能性がある場合もあります。

しかし、実際は「発達障害」ではなく、本人、または相手側に「決定権の誤解」が生じているケースがよくあります。

職場における「決定権の誤解」

自分に「決定権が有るという誤解」

決定権の誤解とは、相手との関係の中で、その立場・役割の違いによっては、他者に決定権があり、その決定権に基づく決定に従う立場・役割についているのに、その決定権は相手ではなく自分にあって、自分で全て決められるという誤解です。

前記の例でいくと、「仕事の割り振りの決定権は、本人に裁量が認められている場合もありますが、それでも最終決定権は上司や経営者にある」ことや、「勤務態度について会社の方針にしたがって指導すること、教えること、サポートすること」が上司や経営者の仕事の中に含まれていることを理解できていなくて、「全て自分で決められる」と誤解していることがよくあります。

注:(パワハラになる一方的な関わりは別です。パワハラのはじまりの背景に決定権の誤解があることもよくあります)。

自分に「決定権が無いという誤解」

また、逆もあります。

管理職や経営者が、自分に決定権があるのに、決定権が無いと誤解している場合です。

なかでも、人間関係を大切にしよう、部下の主体性を大切にしようと努力している人たちが陥りやすい誤解です。

仕事がうまくいっていないとき

例えば、仕事のプロセスが思うように進んでいない時に「部下に任せている、信用しているにも関わらず、部下が自己責任で判断して仕事をしないんです」という場合があります。

こうした場合、部下は自分の責任で決められない事を上司である管理職や経営者に相談して判断を求めたり、決めてもらおうとしても、上司がそれを行わず、部下の主体性を尊重する、部下の成長のためになどを理由にして、任せる見守るという関わりが、それは部下側の立場では、丸投げや放置になり、意図せず部下に責任を転嫁している状況を作り出してしまっていることがあります。

仕事の結果は出ているとき

そして、仕事の結果は出ているが、部下が指示通りの内容の仕事をしない、上司を含め周囲への態度が大きく立場を勘違いしているという時は、上記のような場合も含め、部下の主体性を尊重する、部下の成長のためになどを理由にして、丸投げや放置の関わりが続いていて、意図せず部下に責任を転嫁している状況を作り出しているなかで、部下が主体性を発揮して実績を積み上げて実力をつけた結果として、決定権の誤解が生じていることもあります。

兆しはあっても気づけない

上手くいっている時は、兆しはあっても、それを性格や人間性の問題として捉えがちで、なかなか気づけません。

気づけない背景として、決定権の誤解は、性格や人間性の問題ではなく、関係性の問題なので、自己責任を前提に個人の問題にすり替わってしまうからです。

特に経営者の場合、人を上手く使っていると自他ともに思っていると、決定権の誤解にはなかなか気づけないようです。

トラブルが生じた時にハマる罠

特に、双方に決定権の誤解が生じている時は、物事が上手く行かなくなったりトラブルが起こると、役割として上の立場にいる人は、気持ちは想像出来ますが、全て部下の責任として部下を責めがちです。

そして、決定権の誤解があるまま、相手が問題であることを前提に状況を判断していくと、経営者や上司がの被害者意識が強くなり、本来、マネジメントする立場に立っていることにますます気づけなくなって行きます。

ここで自らの気づきや、他者に相談して、客観的に状況がみれる人は、落ち着いてくると、「部下に丸投げ状態」であったことに気づけると、落ち着いて客観的に状況を見れるようになっていきます。ここで決定権について整理がつけば、解決に向けて物事を進めていくことができるようになっていきます。

気づけない場合や、丸投げや責任転嫁になっていたことを受け入れるのが難しい場合は、決定権の誤解の他に、別の課題や問題を含んだ複雑な問題がある可能性が高いので、当事者だけではなく、解決のためのカウンセリングを利用する方が早期解決に役立ちます。

決定権の誤解がうまれる背景

部下・管理職・経営者、その立場や役割の違いに関係なく、仕事上の決定権の誤解が生まれる背景には共通したものがあります。

大人の関係ではうまくいなかい方法を続けている

一つには、子供時代に、自分の要求を通すために、大人に対して泣いたり騒いだりすることで、最終的に大人が根負けして、子供の要求を受け入れる対応をしてしまい、そのパターンが定着して当たり前として、そのまま大人になっている場合です。

この場合、決定権のある相手の決定に合わせたり従うことも自分の助けになったり、自分の成長を促したり、自他の共通の利益になることを体験的に学びきれていない可能性があります。

今まで良いロールモデルと出会えなかった

また、決定権のある人が自分で決定した事が他者にも良い影響を与えて、自らの責任を果たすということが、どのように自他の役に立ったり利益になっていくのかということを、決定権を持っている人との関係の中で、決定に従う側で体験的できていない可能性もあります。いわゆる、良いロールモデルの不存在です。

責任転嫁の生活環境で身につけた術と生きづらいさ

次に、子供時代、家の事や親族のこと対外的な事など、本来、親に決定権があり親の責任で成し遂げていく必要があることについて、親の事情で、親が子どもに頼って子供に決定させ、その結果についても子供に責任を負わせる(責任転嫁)生活環境の中で、当たり前のように身につけてきた術が影響していることもあります。

この場合、大人になっても、親が子供との関係で、その関わりのスタイルを変えない限り、現在進行形でその状況が続いている事もよくあります。

こうした生活環境の生活に慣れてしますと、決定権がある人の決定に合わせたり従うとことで、自分が保護されたり守られるという安心・安全の体験を体験的に学べないので、結果として、自分で自分の身を守るために、そして、大切と思う他者を守るために、全てのことを自分で決めるということを学んでいることがよくあります。

さらに、こうした生活環境の中で育つと、その子供は、親の責任と自分の責任の区別がつかなくなり、当たり前のように親の責任も自分の責任と思うようになるし、友達や社会的関係の中でも、どんなことも自分が関わりや責任をもってやって行かなければという過剰適応がデフォルトになっている人たちもいます。生きづらさを抱えている人たちの中には、その背景に過剰適応がデフォルトなっていることが影響していることがよくあります。

過度に責任感が強く自責の念が強い人は、このような生活環境の影響を強く受けている事がよくあります。

常に自分のニーズや権利が後回しにされて満たしてもらえない生活環境の影響

また、子供時代、DVなど虐待的な生活環境の中で育って、常に大人のニーズや権利が優先で、大人に自分のニーズや権利を尊重して満たしてもらえる体験がなかったり、その体験が少ないと、人間関係の中で一番パワーのあるポジションにつくと、周囲は自分に従うし、従わせることが出来ると誤解して、それがデフォルトになってしまっていることもあります。

この誤解があると、社会人になって成功したり、業績を認められて影響力をもつと、全て自分で決めるのが当たり前なので、本人が、どんなに相手のことを思っていて優しくしたり、相手のためと思って出来ることを全てしていたとしても、本来、相手に決定権があることも、全て自分で決めて、それが当たり前のような関わりをするので、相手にとってはモラハやパワハラになります。

本人の認識では他者の尊厳や権利を尊重していると思っているので、その思いが強いほど、相手に批判されると追い詰められる体験になり、自分がモラハラやパワハラを受けていると思うようになることもあります。

このようにな問題を抱えてしまう背景には、本人は自分の経験から、相手を尊重しようという意識はあっても、良いロールモデルが存在せず具体的に自分と他者の尊厳と権利を尊重する具体的な関わり方やスキルを体験的に学ぶ機会がなかった又は少なかったことが仮説として成り立ちます。

また、虐待的な関係になれていると、相手が自分より優位だと思ったり、尊重してくれない一方的な関わりをする相手になると、自分には決定権がなく相手に従う(服従)ということを学んでしまっていることもあります(虐待のトラウマ反応)。

決定権の誤解、2つの解消法

関係性を再構築していく。

健全な関係の中でも、背景は違っても、上か下か、強者か弱者かという判断基準によって、決定権のある人の決定に応じたり、決定内容に葛藤が生じて葛藤を相手と調整しながら内容に従っていくことができなくなっている。それが決定権の誤解です。

また、自分の方に決定権があるのに、相手に決定権があると誤解して、自分で決定しない結果、相手に振り回されているということもあります。

決定権の誤解による葛藤は、強い怒りとフラストレーションを伴うことが多く、かなりのストレスとなります。

いろいろ解決のために知識や人間関係のスキルを駆使しても、決定権の誤解を解消しない限り、物事がうまくいっても、葛藤が残ってしまうこともよくあり、それが生きづらさになっていることもあります。

それを解消していくには、決定権の誤解が問題であったことに気づいて、お互いの立場や役割を再定義して、それに応じた関係性を再構築していく必要があります。そのために、双方ともに誤解していた自分の受け止め方や物事への姿勢や言動を変えていくことが必要になります。

この時、大切なのは「それぞれの視点」です。

決定権に誤解があっても、それと仕事に関する視点は異なるからです。相手の仕事に関する視点や経験に基づく視点は主体性からくるものなので、その違いによる意見の相違は、決定権の誤解ではないので、健全な話し合いや議論が大切になります。

その過程で自分自身にとって、新しい体験を繰り返し、新しい学びを自分のものにしていくことで、問題が解消されていき、生きづらさを感じている人は、それが緩和または解消されていきます。

関係性を再構築していくカウンセリング

自分一人ではなく、カウンセリングを受けて、適切なサポートを得ながら、決定権の誤解に気づいて、関係性を変えていくために、誤解による自分の受け止め方や物事への姿勢や言動を変えていく、その中で、感情調整や新しい物事の捉え方を身につけていく方法もあります。

特に、決定権の誤解がある場合、誤解がある人も、誤解している人に対応してきた人も、いずれも一人で頑張って来た人も多いので、一人だとこれまでと違うことを身につけていくのは現実的に難しいことが実情としてあります。私の立場からは、最初は敷居が高く感じられると思いますが、カウンセリングを受けることも選択肢に入れてもらえればと思います。

法的権利の誤解

決定権の誤解があると、法的権利についても誤解がうまれて、法的トラブルが生じることもあります。

法的権利の誤解には、次の二つがあります。

  1. 相手の法的権利を自分の法的権利と誤解すること
  2. 相手の法的権利であることがわかっていても、その相手の権利を相手の同意を得ることなく自分の判断だけで行使できると勘違いし誤解していること

法的権利を誤解している相手に、自分の権利を確認したり、同意なく勝手に決定することをやめてほしいと求めた時によくある反応の代表格が「あなたのためになると思ったから」です。

この場合、誤解している相手が、自らの誤解に気づけない時は、是正や謝罪の対応がなされず、さらに、あなたのためだからと一方的な関わりで叱咤激励してきたり、話をすり替えて自分の言い分を通そうとするなど、全く話が通じない平行線のままの状況に陥ってしまいます。

その時、誤解している側が、自分が正しいと思っているほど、周囲からは誤解している側が正しいと映るので、正当な権利を行使しようとしている側は、強迫や脅迫されているのと同じなので、その勢いや圧で責められると、混乱して、自分の方がおかしいのかなと思うようになったり、自分の方が悪いのかと勘違いさせられて罪悪感を感じるなどして、結局、相手の要求にしたがってしまうこともあります。そして、正当な権利を行使しようとしている側は、時間が経過して落ち着いて混乱が解けてくると、相手の要求を受け入れたことを後悔するようになることもあります。

また、逆に、誤解している側が、権利を有する相手に対し、過度で不自然な感謝や称賛を続けて要求を通そうとする場合もあります。

この場合、正当な権利を行使しようとすると、関係のない他のことを持ち出して、それについて感謝や称賛することで話の焦点をズラしたり、謙虚さを示して感謝や称賛を伝えて相手の善意や良心を刺激して、要求を通そうとします。この場合も、時間が経過してそれに気づき、後悔することがあります。

したがって、何か気がかりや不自然さ、違和感を感じたら、費用が気になったとしても自分の大切な権利を確認し守るために、適切な第三者(法的な権利も理解しているカウンセラーや、関係性を理解して心情面も踏まえて法的アドバイスをしてくれる弁護士などの専門家)に相談して客観的なフィードバックをもらうことが大切です。

法的権利の誤解が生まれる背景と解消法

この誤解は、法的な権利・義務関係の知識がないことが原因で思い違いしている場合と、決定権の誤解と同じ、子供時代に子供の要求について大人が決定権をもっていることについて大人がNOと言わず子供時代に甘やかされて育てられてそれが当たり前になっていたり、子供時代に親の責任を肩代わりしてきたり、虐待的な関係の中で身を守るために学習した判断基準が影響している誤解もあります。

法的知識がない場合は、勉強して知識を得たり、わかっている人に教えてもらい学ぶことで、対応方法を身につけていくことで解決していきます。

一方、子供時代の体験が影響している場合は、決定権の誤解と同じく、気づいて対処できればOKですが、それが感情的に難しい場合や過去の体験が甦って辛くなったりする場合は、それについてのケアが必要なので、そのためにカウンセリングを受けながら取り組んでいくことが大切です。

文責 プロカウンセラー池内秀行

2023年11月9日・10日一部改訂


Wrote this article この記事を書いた人

プロカウンセラー池内秀行

1968年2月生。2001年2月カウンセラーとして個人開業。個人カウンセリング、カップルカウンセリング、ファミリーセラピー、トラウマセラピー、キャリアカウンセリングなど総合的なカウンセリングに加えて、経営者向け、管理職向けのカウンセリング、組織開発プロセスコンサルティング、各種研修を提供しています。取得資格は公認心理師・産業カウンセラー・キャリアコンサルタント・(特非)日本成人病予防協会認定「健康管理士一般指導員」・文部科学省後援「健康管理能力検定1級」。

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