
はじめに
こんにちは。組織開発プロセスコンサルティングを提供しているカウンセラーの池内秀行です。
企業の組織開発は、現在の組織の状態を出発点として、これまで培ってきた会社の強みや各部署、チーム、個人それぞれの強みが最大限に発揮できる関係性と環境を構築していくプロセスです。
このプロセスにおいて、取締役の役割は極めて重要です。
(そして、ビジネスモデルそのものも深く関係してきます。)
取締役は、法的責任を果たすことはもちろん、組織文化を育んでいくリーダーシップ・フォロワーシップを発揮していくこと、イノベーションの推進、そしてステークホルダーとの信頼関係構築など、組織開発に直接的・間接的に影響を与える多くの側面で、中心的な役割を担っているからです。
近年注目されている「ビジネスと人権」(企業活動における人権尊重)の観点からも、取締役の責任と、それを引き受け果たしていくうえでのコンプライアンスセンスの重要性は今後ますます高まっていくというのが、私の実務経験から得ている実感です。
そして、会社の成長段階に応じた組織開発に取り組む際、ビジネスモデルを踏まえた現状と過去のプロセスを客観的に整理して、課題と未来への方向性を明確にするためには、取締役の役割の基本原則に立ち返ることが役立ちます。
本記事で、取締役の法的地位と責任から、その組織開発における意義を解説し、コンプライアンスセンスがある取締役による経営がいかに組織の持続的な成長に寄与するかを探っていきます。
取締役の法的地位と組織における役割
取締役の基本的地位
取締役は、会社法第326条に規定される会社の機関の一つです。
株主総会の決議によって選任され(会社法第329条1項)、株式会社との関係は委任契約となります(会社法第330条)。
(株主総会以外の機関の設置)
第三百二十六条 株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
2 株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。引用元:会社法326条
(選任)
第三百二十九条 役員(取締役、会計参与及び監査役をいう。以下この節、第三百七十一条第四項及び第三百九十四条第三項において同じ。)及び会計監査人は、株主総会の決議によって選任する。
2 監査等委員会設置会社においては、前項の規定による取締役の選任は、監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別してしなければならない。
3 第一項の決議をする場合には、法務省令で定めるところにより、役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この項において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる。引用元:会社法329条
(株式会社と役員等との関係)
第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。引用元:会社法330条
ここで大切なのは、取締役の基本的地位を理解するために、「法的地位」と「立場」の違いを認識することです。
一定数の取締役は、日常業務で立場を理解してくれる人を身近におく傾向があります。
しかし、特に現実的には、取締役が一人であったり人数が少ない場合、取締役の法的地位を理解し尊重して関われる人との関係がないと、本来の取締役としての権限と責任で業務を遂行していくことが困難になっていくことがあります。
- 法的地位:法定されている組織内の固定的で階層的な位置。法的に特定の権限と責任を伴う客観的なポジション
- 立場:地位とは別のより柔軟で文脈依存的な概念。特定の役割に基づく視点や考え方
組織開発における意義
取締役の法的地位を正確に理解するとともに、経営側としての業務上の立場を理解することは、組織開発において次のような意義を持ちます:
1.役割の明確化
各取締役が自身の権限と責任を誠実に理解することで、誠実性(インテグリティ)とリーダーシップに基づく意思決定が可能になります。
その積み重ねが取締役のコンプライアンスセンスを磨いてくれます。
それは、組織としてのコンプライアンスセンスを醸成し、ビジネスモデルを社会的にも意義があるものにしていき、ビジネスと組織の価値を育んでくれます。
そして、トップの役割明確化は組織全体の役割意識を高める起点ともなり、メンバー間の協働を促進し、責任の押し付け合いではなく、互いの役割を尊重しながら補完し合う健全な組織文化の形成にもつながります。
さらに、役割明確化は次世代リーダーの育成にも重要な意味を持ちます。
取締役がコンプライアンスに基づいた役割と責任を遂行していく姿は、将来の経営人材にとって具体的な成長モデルとなります。
また、責任と権限が明確であることは、状況に応じて柔軟に対応できる組織風土を醸成する礎となります。このような環境になると、メンバーが安心して挑戦的な課題にも主体的に取り組むことができ、主体性のある人材が育ち、組織の持続的な成長力が高まります。
2.アカウンタビリティ(説明責任)が創出する組織価値
取締役は、意思決定について「なぜその決定をしたのか」「どのような影響があるのか」を明確に説明し、結果に対して責任を持つことが求められます。
この説明責任を果たすことが、ステークホルダーや社会からの信頼を獲得し、組織価値を高めていきます。
組織開発においては、代表取締役をはじめ取締役・執行役員など役職者の説明責任の姿勢は組織全体に波及効果をもたらします。
取締役が率先して説明責任を果たすことで、各階層のリーダーも同様に自らの意思決定について説明する文化が醸成されていくと、組織全体の対話の質が向上します。
そして、意思決定の理由と結果が明確に共有されていくと、成功・失敗の要因が組織知として蓄積され、次の意思決定の質が向上していきます。
さらに、透明性の高い説明は心理的安全性を生み出し、メンバーが失敗から学び、その経験を共有できる環境を作ります。
これにより、慎重さを保ちながらも建設的な挑戦ができる、倫理的で持続可能な組織風土が形成されていきます。
3.コンプライアンスに基づいた組織文化の醸成
取締役が法的責任とコンプライアンス経営を真摯に理解し、その地位と立場に応じて責任を持って対応していく姿勢(応答責任・レスポンシビリティ)は、組織全体にコンプライアンスを重視する文化を根付かせていきます。
組織開発の観点では、この組織文化の醸成は「メンバーの一人ひとりが、自らの仕事に倫理的な誇りと社会的な自信を持てる組織」の礎になります。
取締役がコンプライアンスに根差し、誠実にビジネスに取り組む一貫した姿勢(インテグリティ)は、メンバーの倫理観と業務を遂行する自信を育みます。
それは、単なる規則の遵守を超えて、主体的な倫理的判断と行動として現れてきます。
なにより、コンプライアンス文化が醸成されていくことで、問題の早期発見・早期対応が可能となり、組織の自浄作用が高まります。
これは、組織の健全性を保ちながら、メンバーが安心して能力を発揮できる環境が生まれ、結果として組織のレジリエンス(回復力・適応力)を高めることにつながります。
取締役の権限と義務
根幹的義務:善管注意義務と忠実義務
取締役の根幹的義務として「善管注意義務」と「忠実義務」があります。
「善管注意義務(会社法330条・民法643条・民法644条)」
善管注意義務とは、法令に定められている「善良な管理者の注意」のことで、その地位や職責に応じて一般的に要求される注意をもって職務を行う義務です。
取締役の善管注意義務は、会社から経営の委任を受けている関係上(会社法330条)、経営者としての能力や与えられた役割によって、その内容が異なります。
一般的に経営全般の専門家として選任されることが多く、その場合は経営判断全般について高度の注意義務が求められます。また、特定の専門的知識や能力を期待されて取締役になった場合は、その期待に見合った、より高度な善管注意義務が課されます(東京高判昭58.4.28判例時報1081号130頁)。
(株式会社と役員等との関係)
第三百三十条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。引用元:会社法330条
(委任)
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。引用元:民法643条・同644条
忠実義務(会社法355条)
(忠実義務)
会社法第三百五十五条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
(忠実義務)
会社法第三百五十五条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。引用元:会社法355条
忠実義務は、法令・定款・株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実に職務を行う義務です。最高裁判決(昭和45.6.24)により、忠実義務は善管注意義務の内容を明確にしたものとされています。
取締役の競業及び利益相反取引の制限と報告義務
そして、忠実義務の具体的な内容として、取締役の競業及び利益相反取引の制限と報告義務があります。
判例による、競業及び利益相反取引の対象になる株式会社の事業の部類に属する取引になる対象事業には次の3つがあります(東京地判昭和56.3.26会社法判例百選第3版と4版)。
・会社が実際に行っている事業
・会社が一時的に休止しているにすぎない事業
・いまだ始めてはいないが、始めることを会社が予定している事業
競業及び利益相反取引が制限されている理由は、取締役が取締役としての地位によって取得した情報や会社の営業秘密、営業上の機会を利用して、会社が利得できるはずの取引の機会を奪い、会社の利益を犠牲にして自らの利益を追求する危険を防止するためです(善管注意義務・忠実義務に違反する事柄)。
ただし、例外的に株主総会または取締役会において承認を得ることで競業及び利益相反取引を認める規定も置いています。
その場合、取締役は、競業取引について重要な事実を開示する必要があります(会社法356条1項1号、同365条1項)。
これは、競業取引によって会社が損害を受けるかどうかを取締役会等が判断するためには、必要な事実の開示と説明が必要だからです。
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。引用元:会社法356条
(自己契約及び双方代理等)
第百八条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。引用元:民法108条
(取締役の報告義務)
第三百五十七条 取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を株主(監査役設置会社にあっては、監査役)に報告しなければならない。
2 監査役会設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株主(監査役設置会社にあっては、監査役)」とあるのは、「監査役会」とする。
3 監査等委員会設置会社における第一項の規定の適用については、同項中「株主(監査役設置会社にあっては、監査役)」とあるのは、「監査等委員会」とする。引用元:会社法357条
善管注意義務と忠実義務は、単なる法的責任というものではなく、組織の健全な発展を支える指針でもあります。
どのような事柄においても、取締役が経営判断を行っていくうえで、常に関わる義務です。
どのようなことが善管注意義務と忠実義務に関係するのか、その都度、事柄によって常に意識して、必要な事実関係を確認し、適切に思考し思慮するプロセスは重圧にもなりますが、そこに取締役の地位でしか創り出せない価値と結果が生まれてきます。
組織開発における意義
取締役の善管注意義務と忠実義務の根幹的理解は、組織開発において次のような意義を持ちます:
1.コンプライアンス意識に基づくリスクマネジメントの強化
取締役がその地位と職務に応じた善管注意義務を意識し、組織全体のコンプライアンス意識の醸成に向けて意図的な関わりを続けていくことで、組織全体のコンプライアンス意識が育まれていくと組織と組織メンバー個々のリスク感度も向上していきます。
組織メンバー個々のコンプライアンス意識が組織の隅々まで波及すると、日常業務においても「これは適切か」「リスクはないか」と意識的に問いかける企業文化が醸成されていきます。
2.倫理的な意思決定文化の醸成
忠実義務は「会社のため」に職務を行う義務であり、これは個人の利益や短期的な部門利益ではなく、会社全体の持続的な発展を優先することを意味します。
取締役がこの義務を深く理解し実践することで、「真に会社のためになるのか」という判断基準が組織に根付いていきます。
この判断基準は、短期的な数値目標の達成だけでなく、ステークホルダーとの信頼関係や社会的責任も含めた総合的な視点での意思決定を支えてくれます。
そこでは利益や法令遵守だけではなく、倫理的な判断も必要となるため、その積み重ねは、組織全体に倫理的な意思決定文化を醸成していきます。
特に現代においては、人権尊重を含めた、より高度な倫理観に基づくコンプライアンスが企業に求められており、この文化形成の重要性はますます高まっています。
3.信頼関係の深化と組織の持続性
コンプライアンスに基づく取締役の誠実な姿勢がステークホルダーに対する組織の信頼性を高め、それが優秀な人材の獲得・定着にもつながります。
この信頼性は、ステークホルダーとの信頼関係の構築に寄与し、企業に何らかの危機が生じた際、協力や支援を得られる基盤となり得ます。
そして、この信頼関係の構築は、組織の持続的成長の土台ともなります。
取締役が善管注意義務と忠実義務に基づいたコンプライアンス経営を誠実に実践していく姿勢は、組織内外に「この会社は信頼できる」という価値を生み出していくことは容易に想像できると思います。
それは、従業員と会社が互いに貢献し合い、共に成長できる信頼関係を育む礎となり、高い倫理観も醸成してくれます。
高い倫理観を持つ組織で働くことは、組織メンバーに心理的安全性をもたらし、メンバー自身の主体性を存分に発揮できる環境を生み出し、ビジネスや組織運営における革新的なアイデアの創出につながります。
さらに、この信頼関係は、変化の激しい時代において、組織が困難に直面した際にも、ステークホルダーとの強固な信頼関係としても機能することが多く、危機を乗り越える組織の底力となり得るものです。
取締役の権限と、取締役会設置の有無による取締役の権限の違い
会社法は株主総会以外の機関として取締役と取締役会等を設置する規定を定めています。そして、取締役会等を設置する場合と設置しない場合、設置しなければならない場合を定めています。
そのため、下記条文の通り、取締役会を設置している会社と設置していない会社では、それぞれ取締役の権限と義務が基本的に異なります。
(株主総会以外の機関の設置)
第三百二十六条 株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。
2 株式会社は、定款の定めによって、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会又は指名委員会等を置くことができる。引用元:会社法326条
(取締役会等の設置義務等)
第三百二十七条 次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。
一 公開会社
二 監査役会設置会社
三 監査等委員会設置会社
四 指名委員会等設置会社
2 取締役会設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。
3 会計監査人設置会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。
4 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、監査役を置いてはならない。
5 監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社は、会計監査人を置かなければならない。
6 指名委員会等設置会社は、監査等委員会を置いてはならない。引用元:会社法327条
(業務の執行)
第三百四十八条 取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。
2 取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
3 前項の場合には、取締役は、次に掲げる事項についての決定を各取締役に委任することができない。
一 支配人の選任及び解任
二 支店の設置、移転及び廃止
三 第二百九十八条第一項各号(第三百二十五条において準用する場合を含む。)に掲げる事項
四 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
五 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
4 大会社においては、取締役は、前項第四号に掲げる事項を決定しなければならない。引用元:会社法348条
*会社法第二百九十八条は(株主総会の招集の決定)についての条文
*会社法第三百二十五条は(株主総会に関する規定の準用)についての条文
*会社法第四百二十六条は(取締役等による免除に関する定款の定め)についての条文
*会社法第四百二十三条は(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)についての条文
*大会社の定義:
会社法第二条六 大会社 次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。
引用元:会社法2条
*会社法法第三百四十八条第三項第四号に規定する法務省令で定める体制(会社法施行規則)
(業務の適正を確保するための体制)
第九十八条 法第三百四十八条第三項第四号に規定する法務省令で定める体制は、当該株式会社における次に掲げる体制とする。
一 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
二 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
三 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
四 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
五 次に掲げる体制その他の当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
イ 当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者(ハ及びニにおいて「取締役等」という。)の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制
ロ 当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
ハ 当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
ニ 当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
2 取締役が二人以上ある株式会社である場合には、前項に規定する体制には、業務の決定が適正に行われることを確保するための体制を含むものとする。
3 監査役設置会社以外の株式会社である場合には、第一項に規定する体制には、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとする。
4 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には、第一項に規定する体制には、次に掲げる体制を含むものとする。
一 当該監査役設置会社の監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
二 前号の使用人の当該監査役設置会社の取締役からの独立性に関する事項
三 当該監査役設置会社の監査役の第一号の使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
四 次に掲げる体制その他の当該監査役設置会社の監査役への報告に関する体制
イ 当該監査役設置会社の取締役及び会計参与並びに使用人が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
ロ 当該監査役設置会社の子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者及び使用人又はこれらの者から報告を受けた者が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
五 前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
六 当該監査役設置会社の監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
七 その他当該監査役設置会社の監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制引用元:会社法施行規則98条
(株式会社の代表)
第三百四十九条 取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
2 前項本文の取締役が二人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表する。
3 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。
4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。引用元:会社法349条
(代表者の行為についての損害賠償責任)
第三百五十条 株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。引用元:会社法350条
(取締役会の権限等)
会社法第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。
2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。
一 取締役会設置会社の業務執行の決定
二 取締役の職務の執行の監督
三 代表取締役の選定及び解職
3 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。引用元:会社法362条
*会社法第六百七十六条は(募集社債に関する事項の決定)についての条文
*会社法第第四百二十六条は(取締役等による免除に関する定款の定め)についての条文
*会社法第第第四百二十三条は(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)についての条文
*会社法第三百六十二条第四項第六号に規定する法務省令で定める体制
(業務の適正を確保するための体制):会社法施行規則
第百条 法第三百六十二条第四項第六号に規定する法務省令で定める体制は、当該株式会社における次に掲げる体制とする。
一 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
二 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
三 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
四 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
五 次に掲げる体制その他の当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
イ 当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者(ハ及びニにおいて「取締役等」という。)の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制
ロ 当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
ハ 当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
ニ 当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
2 監査役設置会社以外の株式会社である場合には、前項に規定する体制には、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとする。
3 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には、第一項に規定する体制には、次に掲げる体制を含むものとする。
一 当該監査役設置会社の監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
二 前号の使用人の当該監査役設置会社の取締役からの独立性に関する事項
三 当該監査役設置会社の監査役の第一号の使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
四 次に掲げる体制その他の当該監査役設置会社の監査役への報告に関する体制
イ 当該監査役設置会社の取締役及び会計参与並びに使用人が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
ロ 当該監査役設置会社の子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者及び使用人又はこれらの者から報告を受けた者が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
五 前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
六 当該監査役設置会社の監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
七 その他当該監査役設置会社の監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制引用元:会社法施行規則100条
(取締役会設置会社の取締役の権限)
会社法第三百六十三条 次に掲げる取締役は、取締役会設置会社の業務を執行する。
一 代表取締役
二 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの
2 前項各号に掲げる取締役は、三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない。引用元:会社法363条
(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第三百六十五条 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
(取締役会の決議)
会社法第三百六十九条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
5 取締役会の決議に参加した取締役であって第三項の議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する。引用元:会社法369条
(取締役会の決議の省略)
会社法第三百七十条 取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。引用元:会社法370条
【取締役会を設置していない会社の取締役の権限と義務】
定款に別段の定めがない限り、各取締役が業務を執行する(会社法348条1項)
取締役が2名以上いる時は、定款に別段の定めがない限り、取締役の過半数を持って業務の意思決定を行う (会社法348条2項)
個々の取締役は会社を代表する権限を有している(会社法349条1項本文)。しかし、代表取締役を選任した場合は個々の取締役は代表権を有さない(会社法349条1項但書)
代表取締役の選任は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、株主総会の決議によって取締役の中から代表取締役を定めることができる (会社法349条3項)
代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する(会社法349条4項)
組織開発における意義
取締役会を設置していない会社の取締役の権限と義務は、組織開発において以下の意義を持ちます:
1.直接的な意思決定による機動性と責任の明確化
各取締役が業務執行権限を持つことで、迅速な意思決定が可能になります。
この機動性は、スタートアップや中小企業など従業員の人数が小規模の会社においては競争優位性の一つになります。
一方で、取締役相互の関係性や協働の質が、そのまま組織風土に反映されやすいという特徴もあります。
取締役相互に協働的な関係性が醸成されている組織では、会社全体の意思疎通が柔軟で、臨機応変に協働するリーダーシップとフォロワーシップが日常業務のいたるところで現れ、会社全体に活気があります。
一方、取締役相互に協働的な関係性が醸成されていない組織では、会社全体の意思疎通が分断的になってしまっていたり、その影響で縦割りで硬直的な関係が日常的になって、その結果、不必要な競争が多くなっていることがよくあります。
また、特定の人に業務が偏っている傾向が強くなっていたり(業務の属人化など)、役職者や強い権限を持っている人は活気がありますが、会社全体としては活気がない雰囲気に覆われていることもあります。
さらに、取締役同士の政治的な駆け引きが加わると、会社全体のパフォーマンスを著しく低下させてしまうこともあります。
2.取締役の協働による組織文化の形成
取締役が敵対的ではなく協働的な議論を行い、過半数で意思決定を行う仕組みを構築していると、組織に対話と合意形成を重視する文化を生み出していくことに資することになります。
この協働的な意思決定プロセスは、組織全体にビジネスライクでありながら民主的で開かれた文化を醸成する礎になり得ます。
一方で、取締役相互の関係が敵対的だと、強権的な文化が醸成されていく可能性があります。このような環境では、建設的な議論よりも力関係による決定が優先され、組織全体の創造性や柔軟性が損なわれることになります。
3.会社事業の成長段階における組織開発の課題と対応
実力のある取締役が陥りやすいマネジメント手法として、自身の成功体験に基づいて画一的なマニュアルやルールを作り、従業員を一律に管理しようとすることがよくあります。
このような「軍隊スタイル」といわれる経営は、個々のメンバーの強みや創造性を抑制し、組織の成長を妨げる要因となることが知られています。
しかし、それがわかっていても現実的には取り入れていることがよくあります。
特に会社事業の成長期において、このような管理手法は業績の停滞を招き、その責任を組織メンバー個人に転嫁することでハラスメントが常態化するリスクもあります。
健康経営が重視される現代において、組織メンバーの多様性を尊重し、個々の強みを活かせる環境づくりへの意識的な転換が社会的要請でもあり求められています。
近時のビジネスと人権、マイクロアグレッション、ダイバーシティなど、人権と心理的安全性など、法令遵守だけではない倫理観も含めた広いコンプライアンス経営を行い、こうした環境を醸成しながら日常業務を展開していく実践的な取り組みが会社の収益性向上のために必要とされてきています。
しかし、実績がある取締役のなかには、自身の哲学・考え方・方法論にこだわって成功した経験があると、外部要因や環境の影響を受けた変化に、組織開発の必要性を認識しながらも、結果として同じパターンを繰り返してしまうことがあります。
このような状況を打破するためには、二つのアプローチが重要となります。
第一に、取締役自身が自らの哲学・考え方・方法論への思い入れやこだわりを自覚し、それが組織にどのような影響を及ぼしているのか認識・検証し、これまでとは異なる視点や方法を受け入れる柔軟性を持つことです。
第二に、外部の専門家やコンサルタントの視点を積極的に活用した継続的な組織開発を進めることです。
【取締役会の権限と取締役会を設置している会社の取締役の権限と義務】
特に重要な理解は、会社法第362条第4項の規定により、取締役会が会社の重要事項については取締役に委任できないことです。
この規定は必ず守らなければいけない強行規定です。
取締役会設置会社は、取締役会という合議体に権限が与えられるので、それにより取締役会を設置していない会社の取締役と設置されている会社の取締役は、その権限と義務が異なります。
すべての取締役で取締役会を組織すること(会社法362条1項)
業務執行の意思決定は、個々の取締役が行うのではなく、取締役会が行う(会社法362条2項1号)。ここでいう業務執行の意思決定は、具体的な取引・経営の基本方針・会社の運営と管理に関する諸事項など全般です。
決議に関して取締役全員は、法令、定款、社内規則、株主総会決議等に違反していないか検討し、経営上合理的であるかどうかの判断をしなければなりません(東京地決昭和54.7.25金融・商事判例581号31頁)。
取締役の職務の執行の監督(会社法362条2項2号)
個々の取締役(特に代表取締役や業務執行取締役)が、法令や会社のルール(定款、取締役会決議など)に従って、適切に業務を行っているかをチェックし、指導・監視することです。
監督の目的は、適法性の確保(取締役の業務執行が法令や定款に違反していないかを確認する)、妥当性の確保(会社の経営方針や取締役会の決定に沿って、業務が適切かつ効率的に行われているかを監視する)、株主利益の保護(会社の健全な経営を通じて、株主や利害関係者の利益を守る)ことです。
そのため、他の取締役の職務執行に関する監督義務にため、会社の定款、株主総会議事録、取締役会議事録、財務諸表(貸借対照表・損益計算書等)など必要書類を精査・理解したうえで、会社の経済活動の状況を把握する必要があります(最判昭和48.5.22判例時報707号92頁)。
取締役の監視義務の範囲は、取締役会で取り上げられた事柄に限られず、代表取締役等の業務執行の全般に及び、必要があれば取締役会を自ら招集しまたは招集を求め、取締役会を通じて会社の業務が適正に行われるようにする義務があるとされています(最判昭和48.5.22判例時報707号92頁)。
取締役の監視義務の範囲について、各取締役は、他の取締役または使用人が担当する業務については、その内容の適正さについて疑いを抱かせる事情を知り得た場合でない限り、適正に行われていると信頼することが許されており(信頼の権利)、仮に他の取締役または使用人が任務懈怠をしたとしても、監視義務違反の責任は負わないとされています(東京地判平成28.7.14判時2351号69頁)。
取締役は善管注意義務・忠実義務の一内容として、会社の業務の適正を確保するために必要な体制(内部統制システム)の整備をする義務を負うと解されているので(大阪地判平成12.9.20判時1721号3頁)、取締役または使用人の任務懈怠が、内部統制システムの不備のために起きた場合には、他の取締役は、内部統制システムの整備義務違反による責任を負うことがあります。
代表取締役の選定・解職(会社法362条2項3号・3項)
取締役会は、次に下記事項につては定款に定めても下記会社の重要な一定の事項の決定を取締役に委任できない(会社法362条4項)
一 重要な財産の処分及び譲受け
二 多額の借財
三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除
競業及び利益相反行為の承認(365条→356条1項)
業務の執行権限は代表取締役及び取締役会で業務を執行する取締役として選定された取締役がおこない、業務を執行する取締役として選定されていない取締役は業務を執行する権限はありません(363条1項)
代表取締役と業務執行取締役は三箇月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければなりません(363条1項)
「取締役会の業務の意思決定」と「代表取締役と業務執行権限をもつ取締役の執行の権限」の区別
【業務の意思決定(業務執行の決定)】
業務を行うかどうか、どのような業務を行うのか、どのように行うのかなど、業務の内容や方針など、会社の業務そのものの内容や方針を定めることです。
意思決定: 会社の経営における根幹的な「何をすべきか」を決定する行為。これは取締役会の専権事項です。
決定内容の例:
- 経営の方向性や方針の決定
- 新規事業展開や事業撤退の決定
- 大規模な投資や借り入れの決定
- 重要な資産の売却・購入の決定
なお、判例により、取締役会の決議が物理的に存在しない場合や、手続きの瑕疵が著しいため、法律上取締役会の決議が存在したと評価できない場合は、たとえ多数派取締役の意思が明確であったとしても、取締役会決議の効力を認める余地はないとされています(東京地判平成23.1.7資料版商事323号67頁)。
意
【業務の執行(執行する権限と責任)】
業務の意思決定(方針や内容)に基づいて会社の事業活動を遂行していくことを指します。
「業務の執行」には日々の業務を具体的に遂行していく権限と責任(レスポンシビリティ)が伴い、具体的な業務を円滑に進めるための個別の判断が含まれます。たとえば、営業担当の取締役が、取締役会で承認された予算内で具体的な契約内容を検討・判断して決定するといった、業務を遂行していくために必要な日々の判断と意思決定も含まれます。
判断: 意思決定された方針に沿って、具体的な業務を遂行する際に求められる「何をするのか」「どう進めるか」という個別の行為のための意思決定。
執行内容の例:
- 日々の取引先との交渉や契約
- 従業員の採用や配置
- 業務の進捗管理や問題解決
【使用人兼取締役の立場】
会社によっては、「雇用契約に基づく使用人(従業員)としての地位」と、「会社との委任契約に基づく取締役としての地位」の両方の地位を兼有する取締役も存在します。
この場合、取締役としての権限を有し善管注意義務と忠実義務を負うとともに、従業員として代表取締役・業務執行役員など上司の指示・命令に服する際に、従業員として雇用契約上の注意義務という二重の責任が生じます。
このような使用人兼取締役は、特に中小企業において、部長や営業責任者などの立場で実務を担いながら、経営の意思決定にも参画するケースが多く見られます。
<執行役員について>
会社によっては執行役員という役職を採用しているところもあります。この執行役員は、会社法上の執行機関ではないので取締役としての権限と義務は生じない、個々の会社の組織上の役職です。したがって、その地位は、会社と業務委託契約などの委任契約または雇用契約関係にあり、日常業務の執行を担う役職であり、会社法上の取締役の地位を当然に兼ねるものではありません。
*雇用契約上の「注意義務」
雇用契約上の注意義務とは、その人の経験・能力に応じた注意義務とされています(茨城石炭商事事件最判昭和62.7.17)。
従業員は、雇用契約に従い、労務提供義務・誠実労働義務・職務専念義務・秘密保持義務・競業避止義務等があります。
労働契約法3条4項「労働者及び使⽤者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を⾏使し、及び義務を履⾏しなければならない。」(信義誠実の原則)
労働契約法3条5項「労働者及び使⽤者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない」(権利濫用の禁止の原則)
労働契約の原則)
第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。引用元:労働契約法3条
【使用人兼取締役の注意義務の板挟みによるジレンマとリスク】
使用人としての服務規定と取締役としての監視義務の板挟み
使用人として:法的に明らかに問題がある指示・命令はもちろん、適法とはいえない指示・命令の場合、従業員としてそのような指示・命令に従う義務はない。
取締役として:取締役として監視義務を果たす必要があり、それを怠ると任務懈怠になり善管注意義務違反として会社に対して損害賠償責任を負うことになる(会社法423条1項)
したがって、使用人兼取締役の立場は両方の責任を問われるので、どちらか一方の地位と立場よりも責任とリスクがあることに注意が必要になります。
単に会社の短期的な利害のみに傾倒した職務遂行は、会社を傷つけると同時に、自分自身にも害をなすリスクが高いことに留意して業務を遂行していく必要があります。
組織開発における意義
取締役会設置会社における権限と義務の体系は、組織開発において以下の意義を持ちます:
1.ガバナンス体制による組織の成熟度向上
取締役会という合議体での意思決定は、個人の独断を防ぎ、多様な視点からの検討を可能にします。
そして、明確な意思決定プロセスは組織の透明性と予測可能性を高めるので、それは組織全体の心理的安全性と信頼感の礎になります。
取締役会での議論が透明性を持って行われることで、組織全体に安心感が生まれ、メンバーが日常業務に集中できる環境を作り、組織の生産性向上につながります。
この仕組みは、組織全体に「重要な決定は複数の視点で検討する」という文化を醸成し、各部門でも同様の意思決定プロセスが採用されるようになると、それは組織の強みとなります。
2.監督機能による学習する組織の形成
取締役相互の監督義務を単なる監視ではなく、建設的なフィードバックの文化を生み出す仕組みとして活用することで、牽制し合うことで政治的な課題を生み出すのではなく、取締役相互の協働を促進していくことが可能です。
この協働意識に基づいた、相互チェックの仕組みが組織全体に浸透すると、メンバー同士が互いの能力と強みを発揮できる組織環境を醸成していくことに資することになり、率直な意見交換を促し、組織の自律的成長力の源になります。
3.使用人兼取締役の存在が生む組織の柔軟性
現場感覚を持つ使用人兼取締役の存在は、経営と現場の橋渡し役として力を発揮することが期待されることが多いポジションです。
そのためには、二重の責任によるジレンマを組織的にサポートする仕組みが必要です。
サポートの仕組みがあることは、後進の安心感にもなり、この立場の人材が能力を発揮できる組織環境の醸成は、経営人材の育成にも寄与することになります。
4.アカウンタビリティに基づく意思決定の共有と経営人材の育成
取締役会での重要事項の意思決定について、そのプロセスと結果を組織内で積極的に共有することは、アカウンタビリティの実践であると同時に、組織全体の成長を促す仕組みとなります。
このような意思決定の共有が制度化されていると、組織メンバーは経営判断の背景やビジネス展開、会社の方向性について理解し、予測可能となります。
これは組織に心理的安全性をもたらす重要な要素になります。
さらに、取締役による積極的な情報共有の実践は、次世代の経営人材にとって生きた教材となり、将来のリーダー育成に大きく貢献することにもなります。
【権限行使の指針:株主利益最大化の原則】
取締役の義務は、基本的に会社(株主)の利益をなるべく大きくするように、善良な管理者の注意をもってその職務を行うことです。
そのため、委任契約にしたがってこれに資する範囲で権限が付与されています。
【会社(株主)の利益の意味】
短期的に得られる利益だけでなく、長期的に得られる利益も含みます。
例えば、不況下でも従業員雇用を維持することが短期的には会社の利益を減少させても、長期的に会社の利益を増加させると期待できる場合には、雇用を維持することが取締役の善管注意義務・忠実義務にかなうことになります。
同様に、設備投資や従業員の教育・能力開発への投資も、長期的視点から正当化されます。
さらに、環境対応や社会貢献活動への投資が、ブランド価値向上や優秀な人材の獲得、将来の規制リスクの回避などを通じて、長期的な企業価値向上につながることが認識されています。
【株主利益最大化の原則の制限・修正】
一方、社会の現実と要請は複雑なので、株主の望むような経営が株主の利益にはなるものの、社会にとっては望ましくない場合もあります。
株主の責任は有限なので、株主の意向に応じて社会にとって望ましくない経営をした場合、それによって生じる問題や損害等の責任は取締役に問われることになります。
そのため、いかなる場合も「株主利益最大化の原則」が貫徹されるべきではなく、合理的な範囲の制限ないし修正が認められる必要があります。
例えば、次のようなことがあります。
- 法令に違反することによって、会社・株主に利益をもたらすと期待される場合も、取締役の法令遵守義務(会社法355条)は、会社・株主の利益に優先するので、取締役が法令に違反することは許されていません。
- 会社債権者の犠牲の下に過度にリスキーな投資をするなど、非効率な経営をすることも許されないと理解されています(モラル・ハザードの問題)。
いずれの場合も、取締役の悪意又は重過失があれば、会社法429条1項・同423条に基づく損害賠償責任が生じます。
(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 取締役及び執行役 次に掲げる行為
イ 株式、新株予約権、社債若しくは新株予約権付社債を引き受ける者の募集をする際に通知しなければならない重要な事項についての虚偽の通知又は当該募集のための当該株式会社の事業その他の事項に関する説明に用いた資料についての虚偽の記載若しくは記録
ロ 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書並びに臨時計算書類に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
ハ 虚偽の登記
ニ 虚偽の公告(第四百四十条第三項に規定する措置を含む。)
二 会計参与 計算書類及びその附属明細書、臨時計算書類並びに会計参与報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
三 監査役、監査等委員及び監査委員 監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録
四 会計監査人 会計監査報告に記載し、又は記録すべき重要な事項についての虚偽の記載又は記録(役員等の連帯責任)
第四百三十条 役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。引用元:会社法429条・同430条
また、債権者を害することを知って行った場合は、債権者に取消権が認められています(民法424条乃至426条)。
(詐害行為取消請求)
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
3 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。引用元:民法424条
一方、会社が、会社の資産や収益の状態に照らして相当な範囲で、寄附等の慈善活動を行ったり、法令で要求される以上に社会・環境に配慮した経営を行うことは、仮にそれをしない場合に比べて会社・株主の利益が減少するとしても、取締役の義務に違反することにはなりません(CSR・企業の人権遵守努力義務・SDGs)。
組織開発における意義
株主利益最大化の原則とその適切な制限の理解は、組織開発において次のような意義を持ちます:
1.持続可能な経営判断の基盤形成
短期的利益と長期的利益のバランスを理解することで、組織は目先の成果にとらわれず、持続的な成長を実現する判断基準を確立できます。
従業員の雇用維持や能力開発への投資が長期的価値創造につながるという視点は、組織全体に「人を大切にする文化」を醸成し、従業員と会社が互いに貢献し合い、共に成長できる信頼関係を育む礎となり、メンバーのエンゲージメントを高めることになります。
2.会社の社会的存在意義の明確化
株主だけでなく、従業員、顧客、地域社会など多様なステークホルダーの利益を考慮する経営は、組織の社会的存在意義を明確にします。
この理解が組織に浸透することで、メンバー一人ひとりが自身の仕事の社会的価値を認識し、自分にとって社会にとっての仕事の意味を見出すことができます。
3.組織としての倫理的判断力の向上
法令遵守が株主利益に優先するという原則の理解は、組織全体の倫理的判断力を高めます。
特に、CSRやSDGs、人権尊重への取り組みが「義務」ではなく「企業価値の源」として認識されることで、組織は社会と共生することが前提であることを起点に、社会に貢献する価値創造を目的とした集団としての組織アイデンティティが醸成されていきます。
【「経営判断原則」ー注意深く業務執行の決定を行う義務ー】
事業経営はリスクを必然的に伴うので、経営判断の結果として会社に損害が生じたからといって、取締役の義務違反が容易に認められるとすれば、経営は萎縮し、そのリスクゆえに取締役になることを選ぶ人が減少し、会社の事業内容や規模によってはなり手もいなくなることは容易に想像できます。
その結果は、会社・株主の利益が損なわれることも容易に想像できるのではないでしょうか?
そこで、経営判断には広い裁量を認める必要性があるという考え方から、その判断の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役として善管注意義務に違反するものではないというのが判例です(最判平成22.7.15会社法判例百選第4版48)。
取締役の判断が著しく不合理かどうかの判断についての審査は、経営判断された当時における、当該会社の属する業界の通常の経営者の有すべき知見・経験を基準に、これを著しく下回っているかどうかによって判断すべきであり、その後に得られた知見に基づく(後知恵)審査をしてはならないというのが判例です(東京地判平成16.9.28判時1886号111頁)。
組織開発における意義
経営判断原則の理解は、組織開発において次のような意義を持ちます:
1.心理的安全性を生む組織風土の醸成
適切なリスクテイクが保護されることで、取締役は萎縮することなく経営判断ができます。
この姿勢が組織全体に波及していくと、組織メンバーも「コンプライアンスに基づいて検討したうえでの挑戦は評価される」という心理的安全性を感じ、積極的で建設的・クリエイティブな提案や取り組みが活性化していく組織風土が醸成されていく礎になり得ます。
2.結果からも学ぶ組織文化の形成
結果だけでなく判断プロセスが重視されることで、組織は「失敗を恐れて何もしない」のではなく、「適切なプロセスを踏んで挑戦し、そこから学ぶ」文化が育まれていきます。
これは組織としての学習能力と組織レジリエンスを育む重要な環境と仕組みになります。
3.次世代リーダーの挑戦意欲の醸成
経営判断原則をコンプライアンスとインテグリティに基づいて実践し活躍する取締役の姿勢は、将来の経営人材に「責任あるポジションでも、適切なプロセスを踏めば果敢な挑戦ができる」というメッセージを送り、リーダーシップ・フォロワーシップのモチベーションの源の一つとなり得ます。
内部統制システムの構築
会社は定款の「目的」の事業を推進するために株主から資金を集めて効率良く事業を展開し、収益を上げて株主に配当するためのビジネスシステムです。
その目的事業を遂行していくために組織全体が有機的に機能する必要があります。
「内規」とは?
ビジネスシステムを全従業員に効果的に運用してもらうために定めるルールが「内規(社内規則)」です。
会社が「内規を制定する権限」「違反行為を調査する権限」「処分する権限」をもっていることは判例で確認されています(最判昭和52.12.1労働判例百選第10版56)。
したがって、会社はこれを定めて、全従業員に従うように求めることができます。
内規に従わない従業員が出てきたら会社は事実関係を調査して社内処分を行う権限も有しています。
業務命令権
会社は労働契約に基づいて従業員に対して業務遂行のために必要な指示又は命令をすることができます。これを業務命令権といいます(最判昭和61.3.13電電公社帯広局事件)。
業務命令権は労働契約に基づく権利なので、その権利の行使が権利濫用(民法1条3項、労働契約法3条5項)にあたる場合には、その業務命令は無効になります。
(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。
(解釈の基準)
第二条 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。引用元:民法1条・同2条
労働契約の原則)
第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。
2 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
3 労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
5 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない。引用元:労働契約法3条
権利濫用に該当するか否かの判断基準は、業務命令権を行使する業務上の必要性と、従業員が被る不利益の比較考量がポイントになるとされています。
大切なのは、業務命令の必要性を十分に説明し、従業員が意見を言う機会が提供されているかという点であり、これらが判断の際に考慮されます。
内部統制システムとは
会社が事業を推進するために、内規を定め、必要に応じて指示命令を出し、これらに違反する従業員がいれば事実関係を調査して社内処分を行うという仕組みの全体を「内部統制システム」といいます。
取締役設置会社における内部統制システムについては、取締役会の専決事項となっています(会社法第348条第3項4号)。
そして、大会社の場合、内部統制システムの構築が義務づけられています(会社法第348条第5項)。会社法施行規則第100条および第118条に、その詳細な内容が規定されています。
内部統制システムの概要は次の通りです。
取締役・使用人等の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制(法令遵守体制・コンプライアンス体制)
取締役等の職務の執行に係る情報の保存・管理の体制
損失の危険の管理(リスク・マネジメント)体制
取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保する体制
企業集団の業務の適正の確保に関する体制(親会社取締役の子会社に対する監督義務、グループ内統制システム)
監査機関(監査役・監査等委員会・監査委員会)の職務の執行に関する体制
監査機関のない会社における取締役の株主への報告体制
たとえば、前述の法令等遵守体制としては次のようなことがあります。
・取締役・従業員に対する会社の業務に関係する法令教育
・内部監査部門(業務執行取締役の指揮・監督下で、会社の業務の適正さを監査する使用人の組織)による監査
・内部通報制度(違法な業務執行が行われていることを知った使用人等が不利益を被るおそれなしにその事実を社内通報できるようにする制度。監査役や弁護士を通報窓口にする例がよく見られる)を整備する。特に、常用労働者数300人超の事業者は、令和2年改正後の公益通報者保護法により、内部通報制度の整備が義務づけられています(同法11条2項。常用労働者数 300人以下の事業者では、努力義務)。
(事業者がとるべき措置)
第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
4 内閣総理大臣は、第一項及び第二項(これらの規定を前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
5 内閣総理大臣は、指針を定めようとするときは、あらかじめ、消費者委員会の意見を聴かなければならない。
6 内閣総理大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
7 前二項の規定は、指針の変更について準用する。引用元:公益通報保護法11条
【子会社管理に関する親会社取締役の責任】
また、親会社の取締役は、親会社に対する善管注意義務・忠実義務の一内容として、合理的な範囲で、子会社の業務を監督する義務があります(福岡高判平成24.4.13会社法判例百選第4版51)。
そこで親会社と子会社の関係として、グループ内部統制システムの整備も定められています(会社法施行規則 第100条 第1項 第5号)。
(業務の適正を確保するための体制)
第百条 法第三百六十二条第四項第六号に規定する法務省令で定める体制は、当該株式会社における次に掲げる体制とする。
一 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
二 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
三 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
四 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
五 次に掲げる体制その他の当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
イ 当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者(ハ及びニにおいて「取締役等」という。)の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制
ロ 当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
ハ 当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
ニ 当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制引用元:会社法施行規則100条
大会社の場合、親会社の取締役は、善良なる管理者の注意をもって、子会社を含む企業集団の業務の適正を確保する体制を整備しなければならないので、これを怠れば、子会社で不祥事が発生した時に責任を問われる場合があります。
組織開発における意義
内部統制システムの構築は、組織開発において次のような重要な意義を持ちます:
1.規律と自律のバランスによる組織文化の形成
内部統制システムは単なる管理統制ではなく、組織メンバーが自律的に判断し行動できる基盤として設計・構築することができます。
特にコンプライアンスに基づく明確な価値判断基準と軍隊のような硬直なルールではなく、業務や取引に応じたコンプライアンスを基準とする臨機応変に適用されるルールによる組織開発を行っていくことで、メンバーは安心して業務に取り組むことができ、「守る必要があることを守りながら、挑戦できる」組織文化が醸成されていきます。
2.心理的安全性の確保と組織の自浄作用
内部通報制度などの仕組みは、問題を早期に発見・解決するだけでなく、「声を上げても守られる」という心理的安全性を生み出します。
この安全性は、メンバーが率直な意見交換や建設的な提案を行う土壌となり、組織の継続的な改善につながり、会社の社会的信用を守ってくれる大切なシステムとして機能します。
3.対話を重視した組織運営の実現
業務命令における「説明」と「意見を言う機会」の重視は、上意下達ではない対話的な組織運営を促進します。
この姿勢が組織全体に浸透することで、各階層でも同様の対話的アプローチが採用され、メンバーの主体性とエンゲージメントが高まっていく環境が醸成されていきます。
4.グループ全体での価値観の共有
親子会社間の内部統制システムは、グループ全体での価値観や行動規範の共有を可能にしてくれます。
それを意図した内部統制システムの構築は、グループ各社が独自性を保ちながらも、共通の倫理観と目標に向かって協働できる組織体制を構築していく礎になります。
内部統制システムは、健全なガバナンス体制とコンプライアンス経営を実現するだけではなく、組織の健全な成長と人材の活性化を支える重要な基盤として機能します。
企業にとってのコンプライアンスとは
企業の存在も、契約も、基本は信頼関係です。
信頼関係は、「相手はちゃんとしてくれるだろうという期待に基づいています」。
企業にとってのコンプライアンスとは、相手の期待に誠実に応えるという意味があります。
この期待の中に、法令遵守と倫理観に基づいた判断が含まれており、現在は人権尊重が努力義務として求められています。
「誰もが、自社の企業活動はコンプライアンスに基づいており、自信をもって胸を張って働ける仕事ができる組織と職場環境を創り出すこと」
そのために、法令と倫理に反しない、人権を尊重する会社の価値観を明確にして、役員と従業員全員が、会社の価値観を軸に考え判断して働き仕事をしていくことが社会的要請として求められているのが現状です。
【コンプライアンス5つの視点】
(1)消費者の期待に応えるー安全・安心・品質・合理的価格など
(2)従業員の期待に応えるー安全な労働環境・適正な労働時間管理・公正な賃金・差別のない職場・ハラスメントのない職場など
(3)取引先の期待に応えるー取引契約の遵守・公正な取引など
(4)社会の期待に応えるー社会参画・社会貢献・社会に対して責任ある行動など
(5)株主の期待に応えるー事故や不祥事を起こさない・企業価値の維持向上など
最後に
取締役の権限と責任、そして取締役会等の権限と責任の理解と、その現代的実践は、企業価値そのものを創造していきます。
それぞれの会社が、それぞれの歴史をもっており、ここまで存続しているということは、それを支えてきた価値と力がそこに存在しています。
それでも、様々な要因で変化が求められることも事実です。
組織開発は、その変化のために必要不可欠な営みです。
現在地点を確認し、必要なことを発見し、それを実装していくためには、労力と時間と費用が必要であることも事実です。
それも含めて中長期に目を向けて営利目的の企業活動としてチャレンジしていくリーダーシップが取締役には期待されていると思います。
まず取締役から始めていく。そして組織全体に広げていく。
それが私が提案することです。
2025.12.31公開,2026.01.01改訂
文責 カウンセラー池内秀行
参考文献
- 田中亘 (2025)「会社法(第5版)」東京大学出版会
- 發知敏雄・他(2021)「持株会社の実務(第10版)」東洋経済新報社
- 岡芹健夫(2023)「取締役の教科書」経団連出版
- 中島茂(2024)「(改訂版)コンプライアンスのすべて」第一法規
- 高井重憲(2024)「弁護士なら知っておくべき業務命令権の行使とその限界」第一法規
- ジョン・ジェラルド・ラギー(2014)「正しいビジネス」岩波書店
- 島田裕次(2023)「不正・不祥事のメカニズムと未然防止」日科技連出版社
- 安岡孝司(2018)「企業不正の研究」日経BP社
- 八田進二・髙林真一郎(2011)「事例でみる企業不正の理論と対応」同文舘出版
- 「別冊ジュリスト・会社法判例百選(第3版)」有斐閣
- 「別冊ジュリスト・会社法判例百選(第4版)」有斐閣
- 「別冊ジュリスト・労働判例百選(第10版)」有斐閣
- 厚生労働省(令和6年4月)「労働契約法のあらまし」
Wrote this articleこの記事を書いた人
プロカウンセラー池内秀行
個人・夫婦・カップル・家族など幅広い人間関係やライフステージの課題に対応する心理カウンセリング・セラピーに加え、経営者・管理職向けカウンセリング、ウェルビーイング支援、組織開発に関するプロセスコンサルティング、および対人支援・人材育成に関する各種研修の提供を行っています。組織内外のコミュニケーション課題、リーダーシップの葛藤、意思決定に伴う心理的負担、経営者特有の孤独感やストレス、管理職のメンタルサポートなど、ビジネスシーンで生じる複雑な心理的テーマにも丁寧に対応いたします。また、個人の内面的な成長や自己理解の促進を通じて、より健やかな組織文化の醸成やチームのパフォーマンス向上を目指します。法人向けには、経営層・管理職への1on1カウンセリング/コーチング、組織開発・変革プロセスにおける心理的支援とファシリテーション等を統合したグループコンサルテーションと、メンタルヘルス・レジリエンス・対人関係スキルなどに関する社内研修、多様性・心理的安全性・ウェルビーイングの推進に関するプロセスコンサルティングなど、法人とクライアント一人ひとりの背景や組織文化に応じたオーダーメイドの対応を大切にしています。国内外の法人・個人からのご相談に対応しており、Zoom等によるオンラインセッションも柔軟に実施しています。 海外在住で日本語による心理支援を必要とする方や、時差・言語の課題を感じている方からも多くご利用いただいています。拠点は東京ですが、全国および海外からのご相談にも対応可能です。どうぞお気軽にお問い合わせください。